相続税額の加算と控除

相続税には、個別事情を反映させるために、下記の相続税額に対する加算と控除がある。下記順番通りに適用する。


1.相続税額の2割加算

一親等の血族(子、親、代襲相続人となった孫など。ただし、養子となっている孫などを除く)及び配偶者以外の者が財産を取得した場合、その者の算出相続税額にその2割相当額を加算する。例えば、被相続人の孫が養子になっている場合や被相続人の兄弟が相続人の場合には、これに該当する。


2.贈与税額控除(暦年課税贈与税)

相続税の課税価格の計算には、生前贈与加算というルールがある。これは、被相続人から相続開始前3年以内相続又は遺贈により財産を取得した人に対して贈与があった場合には、その贈与財産も課税価格に加えて計算されるというもの。贈与税額控除は、その課税価格に加算された贈与財産に対する贈与税額を相続税額から控除する。これは、相続税と贈与税の2重課税を排除するため。


例.相続開始2年前に200万円の贈与を受けていた場合(この年はその他誰からも贈与を受けていない)

贈与税:(200万円-贈与税の基礎控除110万円)×贈与税の税率10%=9万円

相続税:算出相続税額500万円の場合-9万円=491万円(贈与税額控除後の算出相続税額)


3.配偶者に対する相続税額の軽減

配偶者に対する相続税額の軽減とは、配偶者は、法定相続分又は1億6,000万円以下の財産の取得であれば、相続税がかからないというもの。この制度は、財産形成に対する貢献。夫婦間で贈与という認識が乏しいこと。配偶者の相続も近く起こりうることなどから認められている。


申告期限までに分割が確定していないと適用なし

なお、申告期限までに遺産分割が確定していない場合には、法定相続分で取得したものとして計算して申告をする。その際、取得財産が確定していないため、配偶者軽減の適用は、受けられない。


ただし、申告期限までに分割されていない財産が次のいずれかに該当することとなったときには、特例を適用することができる。

  1. 申告期限後3年以内に分割された場合
  2. 申告期限後3年以内に分割できかったことについて、やむを得ない事情※があり、所轄税務署長の承認を受けた場合で、分割できることとなった日から4か月以内に分割されたとき

※遺産分割で調停・審判・裁判など


4.未成年者控除

未成年者控除とは、20才未満の法定相続人については、相続税額から下記の金額を控除する。この制度は、教育費等にお金がかかるために設けられている。未成年者の算出相続税額よりも未成年者控除の方が額が大きく、控除しきれないときは、扶養義務者からも控除可能。なお、過去にこの控除を受けたことがある場合には、既に控除を受けた金額については、控除できない。


未成年者控除:6万円×(20歳-相続開始時の年齢)


例.相続開始時点で14歳10か月の法定相続人

6万円×(20歳-14歳※)=36万円(未成年者控除額)

※端数切捨て(10か月切捨)


5.障害者控除

障害者控除とは、法定相続人が障害者である場合には、その者の相続税額から下記の金額を控除する。この制度は、通常の人よりも生活費等にお金がかかることから認められている。障害者の算出相続税額よりも障害者控除の方が額が大きく、控除しきれないときは、扶養義務者からも控除可能。なお、過去にこの控除を受けたことがある場合には、既に控除を受けた金額については、控除できない。


障害者控除:6万円(特別障害者※は12万円)×(85歳-相続開始時の年齢)

※障害者手帳1,2級


例.相続開始時点で14歳10か月の法定相続人(特別障害者)

12万円×(85歳-14歳※)=852万円(障害者控除額)
※端数切捨て(10か月切捨)


6.相次相続控除

相次相続控除とは、10年以内に2回以上の相続があり、2度目の相続(2次相続)の被相続人が1度目の相続(1次相続)で相続税を納付しているときは、相続税額から一定の金額が控除されるというもの。この制度は、短期間に重ねて相続税の負担をしていると負担が重くなるため認められている。


算式:A×C/(B-A)※×D/C×(10年-E)/10年

※100/100を超える場合には100/100とする

A:第1次相続の相続税額

B:第2次相続の被相続人が第1次相続により取得した財産の価額※

C:第2次相続の課税価格合計額※

D:第2次相続で各相続人が相続により取得した財産の価額※

E:第1次相続から第2次相続までの期間(1年未満切捨)

※債務控除後の金額(生前贈与加算前の金額)


事例 

今回の被相続人が8年10ヶ月前の相続で1億円を相続し、相続税2,000万円を負担していた場合に、今回の相続で課税価格1.5億円、相続人の1人が3,000万円を取得しているとき

2,000万円×100/100※×8年/10年=400万円(相次相続控除額)

400万円×3,000万円/1.5億円=80万円(この相続人の相次相続控除額)

※1.5億円/(1億円-2,000万円)>100/100 ∵100/100


7.外国税額控除

外国税額控除とは、相続財産の中に外国の財産があり、その財産について、その国で相続税又は贈与税に相当する税が課せられたときは、相続税額から一定の金額が控除される。この制度は、日本の相続税と外国の相続税との2重課税を排除するために設けられている。


控除額

外国の相続税又は贈与税に相当する金額(ただし、下記の金額を超える部分は控除されない)

<算式>

算出相続税額×外国の財産の価額※/課税価格※

※債務控除後の金額


8.贈与税額控除(相続時精算課税贈与税)

贈与税額控除(相続時精算課税贈与税)とは、相続時精算課税贈与税が課せられているときは、その税額は、相続税額から控除する。また、相続税額から控除しきれない贈与税額がある場合には、相続税の申告をすれば、その税額は還付される。


事例1 

相続税額500万円-相続時精算課税贈与税額300万円=200万円(相続税納付)


事例2

相続税額0円-相続時精算課税贈与税額300万円=300万円(相続税還付)


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